トップメッセージ

厳しい決算ながらも確かな収益の土台を構築
「事業ポートフォリオマネジメントを強化」で、より筋肉質な経営へ
-
戸田工業グループは、1823年の創業以来、時代に対応した様々な無機材料を提供してきました。祖業である赤色顔料のベンガラは、創業当時、建材や陶器の着色に欠かせないものでした。そして、現在は、モビリティ・AI・環境の成長フィールドにおいて、磁石材料、誘電体材料、軟磁性材料等を提供し、社会を支えています。200年を越えて当社グループが存続しているのは、ベンガラの原料となる酸化鉄の製造に関して、独自の技術を確立したことにあります。これからも、湿式合成をはじめとする微粒子合成技術を深化させ、時代に必要とされる素材を提供することで社会に貢献してまいります。
- 「Vision2026」始動 ~ 1年目は厳しい結果に
-
当社グループは、2030年度の「ありたい姿」の達成に向け、2024年度を開始年とする3か年の中期経営計画「Vision2026」を実行しています。 収益性・成長性について各事業の位置づけを整理し、「事業ポートフォリオマネジメントの強化」を最大のMissionと掲げ、事業成長のための選択と集中を進めています。
また、「Vision2026」では、経営目標数値を設定しています。営業利益率2%、ROE6%、自己資本比率26%の目標に対し、2024年度は、営業利益率▲2%、ROE▲29%、自己資本比率22%となりました。
策定時には覚悟をもって目標達成を誓ったにもかかわらず、計画初年度から厳しい結果となったことに対し、重く責任を感じています。目標と実績の乖離から、社内では目標を見直す意見もでました。しかし、事業ポートフォリオマネジメントの実行により収益力は確実に回復してきており、掲げた目標を変更せず、達成にむけ、一層の力を注ぐ決意をいたしました。
- 2024年度は収益力回復のための過渡期
-
2024年度の業績は、連結売上高317億円、営業利益▲6億円、経常利益▲14億円、当期純利益▲36億円と、前期と比べて増収ながら営業利益と経常利益は大きく減益となりました。
増収要因は、「成長」と「次世代」への経営資源の投入です。その1つとして、これまで持分法適用関連会社だった韓国の戸田マテリアルズ株式会社(以下、TDMI)を連結子会社化し、事業連携を強化しました。その結果、軟磁性材料の収益が大きく伸長し、連結売上高に貢献しました。
一方で営業利益の減益要因は大きく2つあります。
1つ目は、当社個別(連結子会社含まず)の収益回復が不十分だったことです。機能性顔料の需要減少、原材料とエネルギーの価格高騰等の要因で収益力が低下しました。
2つ目は、リチウムイオン電池(以下、LIB)用前駆体材料の売上が想定以上に縮小したことです。LIB用前駆体材料は、カナダの子会社の戸田アドバンストマテリアルズInc.(以下、TAM)が製造し、主に欧州向けEV の材料として提供してきました。TAMの安定した売上高は、長らく当社グループを支えてきましたが、近年、車両モデルチェンジに伴い受注が急激に落ち込み、収益性が低下しました。
「Vision2026」では、両事業ともに「再生・転換」に位置づけ、改善に向けて活動してまいりました。
個別においては、価格是正、経費の削減等に取り組み、特に運転資本回転期間の短縮を目標に掲げ、棚卸資産の削減の適正化に取り組みました。その結果、個別における営業利益は前期比9億円の改善、連結の棚卸資産は39億円の圧縮となりました。営業キャッシュ・フローも徐々に回復しており、運転資本の効率化から得られた資本により、より筋肉質な経営体質への転換を図っています。
TAMの事業においては、需要が減少する中、新たな顧客への拡販、パートナーとの協業の可能性、事業継続による将来的なシナジー等について、長い時間をかけて検討・議論しました。最終的に、2025年3月の取締役会でTAMの解散・清算を決議しました。この決議は、これ以上の損失を抑えるという面で正しい判断だと思っていますが、2024年度の業績には、解散などの手続に見込まれる費用として、約11億円の特別損失を計上するこ ととなりました。これほどの損失に至る前に、もっと早く意思決定をすべきだったと反省しています。また、ビジネスが縮小する中、事業継続を信じて尽力いただいた従業員に報いることができなかったことに対し、大変申し訳なく思っています。この反省を活かすため、分析ツールや判断基準を検討し、経営状況分析および意思決定における質とスピードの両立に努めてまいります。
- 経営目標数値達成のカギは、モビリティ・AI・環境への製品展開
-
当社グループは、「Vision2026」の最大のMissionである「事業ポートフォリオマネジメントの強化」を推進する上で、成長フィールドと位置づけた、モビリティ・AI・環境への製品展開を進めています。
磁石材料は、EV 市場におけるモータやセンサの需要拡大が見込まれ、粉体から、コンパウンド、成形品までお客様のニーズに合わせ、幅広い形態で提供しています。成形品においては、中国の子会社が有する金型技術・成形技術が収益に貢献しており、今後、さらに水平展開したいと考えています。
誘電体材料は、モビリティ・AI に欠かせない積層セラミックコンデンサ(以下、 MLCC)の素材です。事業領域を粉体から分散体※まで拡大し、市場のニーズに応えてまいります。
※粉体を溶媒中に均一に分散したもの。工程短縮と品質向上の両立が可能。
これら磁石材料と誘電体材料は、市場拡大とともに競争も厳しさを増しています。市場の伸び率と当社の伸び率の差異に注視しつつ、競争力の獲得や参入障壁の構築に必要な経営資源の投資を継続します。
軟磁性材料は、主にインダクタに用いられます。2024年度の増収に貢献したTDMIとの連携強化により、成長を続けるインダクタ市場の需要を確実に捉え、事業の拡大を図ってまいります。
環境関連材料においては、産学官の連携により、開発や実証実験において成果が生まれ始めています。二酸化炭素を回収するシステムや、メタンガスから水素を製造するシステムについて実証実験を行っており、事業化に必要なデータの取得を進めています。これら環境関連材料は、「Vision2026」の期間中、収益に大きく貢献することはありませんが、さらに先の将来に大きく貢献するものと考えております。
事業ポートフォリオにおいて「再生・転換」に位置づけている事業は、現在、全力で合理化に取り組んでいます。先に述べたTAMの解散・清算ほか、ハイドロタルサイトは、堺化学工業株式会社との協業を解消し、ヘルスケア、半導体等の市場での採用を目指しています。トナー・着色顔料は、需要減少という市場動向に合わせて、製品群の統廃合、価格是正等に取り組み、一定の成果を得ています。
2025年度は、これらの再生・転換事業の整理に伴い、当社グループの売上規模は一時的に小さくなります。その売上規模に見合った体制や設備に再構成し、「Vision2026」で掲げた経営目標数値の達成を目指します。
- 人財戦略×DX戦略 ~ 変革の中核を担う組織づくり
-
2024年度より、社内取締役と人事部門による人財育成会議を定期的に開催し、経営戦略と人財戦略の連携を図っています。事業環境の変化が激しい中、今後、必要となるのは、現状を正しく認識し、現状に疑問を持ち、現状を変えることをいとわない人です。そして当社グループが目指すのは、挑戦を是とする組織になることです。 これらは技術立社である当社グループの組織開発の根幹であり、従業員に繰り返し伝え、リーダーの職責を担う方には、常に心に留めておくよう、お願いしてまいります。
DX推進人財の育成環境も整備しています。DX推進を担う部署として、デジタルイノベーション推進室を新設しました。DX推進の専任部署を設けることによって、個人と組織の両面でデジタルスキルを獲得し、蓄積してきたノウハウを形式知として継承し、あらゆる業務で利活用できる体制にしていきたいと考えています。当社のありたい姿の実現にはDXが不可欠であり、デジタルイノベーション推進室のメンバーが、当社の変化の中核として大きな推進力になることを期待しています。
新設したデジタルイノベーション推進室には明確な狙いがあります。
短期的には、新基幹情報システムを導入し、業務を高度化することです。管理業務の高度化については、これまで業務プロセス毎に別々で使用していた各システム(生産管理、人事管理、会計等)を統合していきます。新システムへの移行により、効率化や省人化だけでなく、在庫管理から販売までの一貫したデータを用いたバリューチェーン分析につなげたいと考えています。製造業務の高度化については、熟練従業員が支える製造ノウハウを自動処理やAI支援を導入することによって、従業員の負担軽減、および属人化の解消と技術の継承を目指します。
中期的には、デジタルツールと当社の技術を掛け合わせ、技術戦略立案や事業創出につなげていきたいと考えています。
- 「すり合わせ力」を拡張 ~ 成し遂げたい3つのこと
-
当社グループは、当社の強みを、「創造力」「モノづくり力」「営業力」を一体のものとした、「すり合わせ力」と表現しています。磨き続けた技術を価値に変える力であり、自然科学における理論と現実の社会を結び付けるための力であり、お客様やビジネスパートナーと共に新しいものを世に出すための力です。
当社グループは、製品の開発にあたり、お客様と対話を重ね、「お客様が当社グループの製品をどのように使うのか」、「お客様における課題は何か」を確認します。当社グループは、直接のお客様だけでなく、その先のお客様がどんな体験をし、どう感じているのかを理解したいと考えています。そして製品として世に出した後も、お客様と対話を続け、継続的に改善を行います。
常にお客様の高い目線を共有し、それに対応し続けることこそが当社製品の競争力となっています。当社の技術力を高く評価してくださっているお客様からは、成長市場、成熟市場に関わらず、新たな価値創造、新たな開発の依頼をいただくことができています。これこそ「すり合わせ力」の成果と感じています。
今後、当社グループは、この「すり合わせ力」を拡張し、以下、3つのことを成し遂げたいと考えています。
1. 循環社会の構築
世界人口は増加しつづけ、同時に人々の生活レベルはとどまることなく向上していますが、自然から採取可能な資源は有限です。この不均衡が、将来不安や国家間対立の原因となっています。持続的な社会活動のためには、未利用資源・廃棄物の利活用が欠かせません。
当社グループは、当社の技術力を用い、鉄を含有する産業廃棄物や他業種の副生成物を当社の原料として転用し、価値のある素材を創出してまいりました。この技術力で循環社会の一端を担い続けることが当社の存在意義であり、強みであると思っております。「 すり合わせ力」を拡張することで、サプライチェーン全体の廃棄・回収・利活用等の課題に対して、経済合理性のある解決策を提案できる企業でありたいと思っています。
2. 高付加価値品・少量生産への転換
当社のような素材・化学産業は、往々にして大きな設備投資が市場参入の障壁となっています。多量に生産することでコストを下げる、多量に生産するために大きな設備が必要となる、という構造です。
この考え方から脱却し、最小の初期投資を実現するプラント設計力を獲得することで、少量生産でも利益が出る組織に変わっていきたいと考えています。設備の安価調達、IoTの利活用、プロセスの短縮、エネルギーの回収、事業拡張・転用・撤退時の費用削減等、設備設計に関する総合力を発揮して、コスト競争力につなげていく。海外で活躍した従業員も増えてきているため、社内外の力をうまく結集すれば実現可能だと考えています。
3. 社会にゲームチェンジをもたらす素材の創出
オーディオテープやビデオテープ用磁気記録材料が全盛期の時代、これを支えたのは、当社の設備設計や量産化の技術でした。絶え間なくモデルチェンジが行われる現代において、既存の設備、既存の技術をもって戦うことは限界があります。
一方現在は、ナノテラス※のような産学官協力やオープンイノベーションを通じて、さまざまな最先端技術に触れ、活用することができます。大きな資本が無くとも新しい素材の開発が可能な環境が整いつつある今だからこそ、「鉄に関する世界初の素材」の発見も夢ではないと思っています。
※ナノテラス:東北大学キャンパス( 仙台市)内にある次世代放射光施設。放射光を利用して物質の性質をナノレベルで鮮明に可視化する巨大顕微鏡。
- ステークホルダーの期待に応えるべく収益力の回復に邁進
-
2024年6月、社長執行役員に就任して以降、皆様との対話を通じて、当社グループが多くのステークホルダーに支えられていることを改めて実感しました。特に株主・投資家の方からは、厳しい意見や提言だけでなく、期待と激励をいただきました。感謝の気持ちとともに、昨今の業績や無配が続いていることについて忸怩たる思いを抱いています。皆様のご期待に応えるべく、「事業ポートフォリオマネジメントの強化」を軸に、収益力の回復と持続的成長に向けて全力で取り組んでまいります。
技術と人財の力を結集し、社会から必要とされるユニークなモノづくり企業であり続ける。当社グループの未来は必ずや明るいものとなると確信しています。今後とも一層のご理解・ご支援をお願い申し上げます。